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公益社団法人
全国宅地擁壁技術協会
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宅地擁壁考 -第2回-

   
住宅・都市整備公団首都圏都市
        開発本部宅地擁壁研究会
                         森下 毅一
                          吉田 恭子
 
 
 
   
[プレキャスト擁壁に求められているもの]
 今回は、人に優しいという観点、また、街の景観素材として、今日、プレキャスト擁壁に求められている課題とは何かを考えてみたいと思います。 
 先日、街づくりの中で高齢化・ハンディキャプト対策をどう解いて行ったら良いのかをテーマに、この問題と長年取り組んでこられた研究者のお話をうかがう機会がありました。そのお話のなかで、北欧のある特別養護老人施設の話が出てきました。しかもそこに収容されているご老人はほとんどアルツハイマー症の方達ばかりだというのです。ところが、そこにいる人達は、個性的でお洒落で、しごく生きいきとして暮らしているというのです。 
 それぞれの病室は個室なのですが、これが自宅の部屋をそのまま再現するようになっていて、家族の思い出の品や、長年慣れ親しんだ家具や調度品、気に入った衣装といったものに囲まれて暮らしているというのです。痴呆性老人だからといって、とりわけ特別扱いをするのではなく、普通の人と同じような暮らしを保証しているのだそうです。
 当然、ヘルパーの手助けが必要なことは言うまでもありませんが、 いわば各病室が一軒一軒の自宅のようになっていて、 それぞれが着たいものを着、好きな髪型をし、したいことをして暮らしているというのです。 とても信じられないような話ですが、実際、 見せていただいた写真には、まさにそのような暮らしをする車椅子の老婆が真っ赤なドレスを品良く着こなした姿で写っていました。 
 また、この”自宅”のドアを一歩出ると、そこは共用の居間になっていて、 それぞれ会話の意味はほとんど通じていないとはいうものの、 おしゃべりを楽しでいるというのです。 わが国のこうした施設や福祉のあり方と比較して、なんとも羨ましいばかりか、 人間らしさ、ヒトに優しいという事の本当の意味を痛感せずにはおられません。 
 ところが、こうした立派な施設にも盲点があるもので、”自宅”のドアが判らずに迷子になるケースが後を絶たず、 頭を痛めているのだそうです。 各部屋の入り口部分はどれもが似通っていて団地のよう。 そういえば、団地にも同じような現象がおこりつつあるようにも思えますが。 表札や色彩・サインも感知力の低下したお年寄りが自分のドアを識別するのにはあまり効果が無かったのだそうです。 施設管理者は苦心の末、家族の写真をドアに掲げたところ、 これが絶大なる効果を発揮し、迷子が減少したということです。 自分の名前すらわからなくなったご老人でも、 だれであるかは別にしても家族の顔だけは記憶しているのだそうです。 
 
 
 
[コミュニティーウォールのすすめ]
=住民参加型の宅造擁壁=
 
 少々前置きが長くなりましたが、以上述べてきた事は、擁壁の未来にとっても、多くの示唆をはらんでいるように思えます。近い将来、高齢化の真っ直中で、擁壁に表札がわりの家族の写真を掲げる事になるかどうかは判りませんが、今日、擁壁にとっても個性的なわが家らしさの追求は、少なからず必要と言えます。 
 それでは、街の景観を統一化しやすい反面、ともするとどこもが似通った画一的パターンに陥りがちな宅地擁壁をどう工夫すればよいのでしょうか。しかも、個性的で、お洒落で、上品な表現でなければならないでしょう。 そこで、ひとつの提案ですが、コミュニティー・ウォールというのはどうでしょう。つまり、住まい手の手作り感覚のある擁壁をイメージしてください。ここでは擁壁は半完成品として据えます。 
 例えば、壁面の一部や、天端の笠木部分、巾木部分にあらかじめスリットや凹凸などを設け、 それぞれ住まい手の趣味で素材を選び、仕上げてゆけるような余地を残した擁壁です(図1)。
 
 
もちろん、そのままでも使えなければならない訳ですが、壁面や表札の表情を形づくることを通して、住まい手が自らの個性を表現し、わが家らしさを感じることでしょう。外部空間の単なる壁がそのまま一家のマイルストーンとなるのです。 また、街並への個性の発信をとおして、ごく自然に、各戸が街づくりに自分らしく参加していくことになるという思わぬメリットもあります。コミュニティー・ウォールは、こうした効果を総称したものだと思っていただければ良いでしょう。 
 さらに、人に優しいという観点で、擁壁に為させる事は無いでしょうか。今日、街は、高齢化という新たなる課題に直面しています。 ハウジンクメーカーのテレビCMにも、ちょっと広めの廊下100cmの提案などというのが出始めています。万人が避けて通れない高齢化社会に向け、もしもの時にも、 在宅ケアで過ごせる、人生80年時代に対応した住宅規格の提案が静かに始まっていると言えます。これに呼応して、住宅外構や街路・公園等の外部空間も、これからは、ノーマライゼーション・バリアフリーといった視点で作り替えられて行くことでしょう。 
 
 ここで考えてみて下さい、擁壁のある所には必ず高低差というバリアーが伴うということです。あたりまえの事ですが、公共空間ではバリアーはスロープ等を設けることによって解消されてきました。しかし、戸建て住宅の外構等では、敷地上の制約から、これまで仕方無いものとされてきました。ところが今日、この物理的に埋め難いバリアーを解消するさまざまな機器が開発されています。門戸の段差を昇降するための小型リフト、地下車庫から屋内へ昇降する家庭用エレベーター等がそれです(写真A)。 
 住宅へのアプローチ部分の階段袖壁等は、手摺りやこれらの機器が将来必要になった時、いつでも大改造すること無しに、ローコストで取り付けられることが、今後、重要になって来ると思われます。あらかじめ、こうした機器を取り付けられる強度をゆとりとして見込んだ擁壁。 アタッチメントを備えていて、安価に機器を装着できる擁壁。これこそ、人に優しい擁壁と言えるのではないか。これもコミュニティー・ウォールの一環として、どうしても提案しておきたいことです。
 
 
   
[コンクリートのテクスチュアーを活かす]
 さて、ここで観点をかえて、少々デザインをいじくっている技術屋の目から見た、プレキャスト擁壁のあり方を述べてみましょう。 
 我々が、プレキャスト擁壁を街の景観素材として見る時、少々残念に思っているのは、疑石模様の化粧型枠に凝る余り、コンクリートの生地の良さを活かした製品が少ないという事です。コンクリート製品の仕上げはなんと言っても、先ず打ち放し、そして、つつき仕上げ、小叩き仕上げ、研磨、洗い出し、縦リブ・横リブが基本だと思うのです。ところがコンクリート本来の生地の面白さを醸し出す、これらの仕上げの良さを追求した製品があまりに少ないのです(写真B、C)。 
 化粧型枠にしても、これらの仕上げの基本を忠実に再現するものを先ず開発すべきではないでしょうか。その上で、笠木、面の上下、巾木等で、これらの仕上げを使い分ける事が出来れば、かなり味のある製品が完成すると思うのです。打ち放しにしても、如何に打ち放し面を美しく仕上げ、これを維持するか、という研究がまだまだ不足してはいないでしょうか。 
 最近、酸性雨にも対抗できる、コンクリート面の保護養生剤として、浸透性で極めて持続力の長い表面塗布剤等が開発されています。無色透明から着色も可能な、こうした新素材との組み合わせを含めた、技術的検討を必要としているのです。 
 
 
 
[新素材・新技術との融合の必要性]
 また、壁体表面の凹凸による陰影、街の灯かりに照らされた時の演出効果を心憎く利用した擁壁や、 音がシャープに反響して、せせらぎの音を増幅したり、舞台のホリゾントの役割をしたり、音を和らげてしまうプレキャスト擁壁、なんかがあってもいいのではないでしょうか(次頁写真D)。 
 景観演出の素材として、さまざまな新素材、新技術との融合を発想し研究していく中で、擁壁の用途はさらに開けてゆくと思えてなりません。
 
 
 
[化粧型枠に一言もの申す!]
 さて、最近流行の擁壁として、化粧ウォールがあげられます。全てとは言いませんが、この化粧ウォール、我々の目から見て、もう少し改良を加えたら良いのではないかと思うものが幾つかあります。つつき、叩き仕上げを表現したものや、間知石積を模したもの等、細かな模様や、同じピースの連続によって化粧しているものは、 ほとんどいいと思いますし、最近の着色技術によって、遠目には、本物の自然石積みと見ま違えてしまう程のものもあります(写真E)が、どうにも気になるのは、1ブロックの中を大小取り混ぜた、自然石の乱張り風に見立てたものや、同じく、玉石積みを表現したものなどです。この頃、大変重宝がられているようで、あちこちで見かけるようになりました。 
 当然、何もしないよりはいいと思いますし、ローコストである程度テクスチュアが要求されている所では、必要な素材であると思います。しかし、端的に言って、「そう言えばあそこにもあった模様だ」という印象を一目で抱かせてしまう所に、これらの化粧型枠のつまらない点があると思うのです。疑似自然を追求したところまでは良かったのですが、一歩、遠目で見た時、同じ模様がまるでエッシャー模様のように規則的にというか、 幾何学的に連続して見えてしまいます。これでは、どう見ても自然素材には見えないばかりか、粉い物であるということをあらわにしているようなものだと思えてならないのです。この、幾何学的とも言える連続模様が、「あそこにもあった」という印象を焼き付けてしまうのでしょう。 
 
 本物の天然素材にはかなわないというものの、せっかく、疑似自然を追求したのに、あまりに不自然に見えてしまうのは、残念なことです。 
 それでは、どうすればいいのか? 私どもは、基本型となる型枠の数をあと5種類も増やせば、だいぶ違ってくるのではないかと思うのです。種類が多ければ多い程、それは効果的ですが、自然に見せるためのもう一歩の努力が、これらの化粧ウォールの完成度を飛躍的に高める筈だと確信します(図2)。建築系の外壁に用いられる化粧型枠が、きわめて繊維に品格良く使われているのに比べて、土木系のそれが、いま一歩デリカシーに欠ける点が、この工夫にこそあると思うのです。是非、この改良を加えてほしいと思います。 
 
 
 
[素材を使う側の意識にも問題が・・・]
 最後に、私ども設計者の側にも問題があることを指摘しておきたいと思います。それは、素材を並べ立てて使いすぎる場合があるということです。特に、二次製品では要注意なのです。どんな事かと言いますと、玉石積み風の化粧ウォールと、着色したスレート乱張り風の化粧ウォールと、間知石積み風のそれとを狭いスペースに隣合わせてちまちまと採用してしまっているような場合です(写真F)。 
 デザインにテーマが無く、ちぐはぐとした空間を設計しているにもかかわらず、本人は、景観設計をしてやったりと、ひとりよがりしている。というケースがよくあります。まさに、私ども設計者は、デザイナーでもなければならない訳ですから、常に、素材に対する研究を怠ってはだめだということなのでしょう。また、素材を提供するメーカー側の皆さんも、実際の施行事例を景観的に分析して、それぞれの素材について、どのような扱い方が好ましいのかを設計者に示していただく事も、重要に思えてなりません。
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